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2020.01.20 | 建築

私の好きな”かたちと風景” ⑮高島城

私の好きな “かたちと風景” ⑮ 高島城

 諏訪湖を抱く豊かな地域として知られる諏訪市。諏訪湖を一望できる立石公園を早朝訪れると、驚いたことに、すでに若い人たちが写真を撮っている。正直なところ、私はよくわかっていないが、知人によると『君の名は』(新海誠監督)という映画で諏訪湖が使用されたことで聖地と化しているのだという。諏訪市は、文化財に相当する歴史的建築物が数多く存在する町でもある。この町で、50年もの間、町のランドマークとして、また市民のコミュニティの場として親しまれてきた場所に高島城がある。高島城は、いわゆる復興天守に分類される現代に甦った城である。
竣工したのは昭和45年。昭和30年代半ばから市民の間で復元の声が高まり、行政と市民を交えた大騒動を経て、市民の寄付で完成した。設計は、鉄筋コンクリート造の和風建築を数多く手掛けた建築史家・大岡実である。
 高島城は、史実に基づく再現とされているが、実際には明治8年の破却前の写真は3点しかなく、外観については可能な限りの再現がされたという言い方が適切であろう。専門的には、工法や数値などがわかる資料や模型などから再現されたレプリカ(忠実な複製)というよりは、写真に基づいたイメージ(そのものの有様を示す大体の感じ)の再現に分類されるだろう。とはいえ、この城は、腰壁の下見板部分こそ塗装が薄らいできたが、竣工当初の白黒写真を破却前の写真と比べると、華頭窓が3連であることを除き、ほぼそのままの姿を持つので、遠景ではほぼ破却前の写真と同一に見える。
 高島城で、私が毎回興味を持って触る箇所が外壁の腰部分の下見板である。もともとは、工場生産した部材を現場で組み立てる予定だったようだが、実際には現場で下見板張りの型枠を組んでコンクリートを打設したようである。果たしてうまくコンクリートが行き渡るのかとも思うが、いずれにしてもこの手間には感服する。軒先の垂木などもすべてコンクリートによる表現である。
内部は当初から展示施設として計画されており、現在は高島城関係の展示がある。破却前の写真も展示されているので見比べてみてほしい。現在、高島城をインターネットで検索すると城以外でも注目されていることがわかる。「すわこ」と「諏訪姫」のキャラクターのフィギュアである。城は、藩政期には権力の象徴として存在し、再現時には市民の象徴となり、現在はキャラの聖地になりつつあるのだろうか。

協力 : 一般社団法人大昔調査会、高見俊樹氏、中島透氏

 

 

 

博士(工学)、有限会社花野果 代表取締役
二村 悟 Satoru Nimura

受賞歴:O-CHAパイオニア学術研究奨励賞 受賞、第47回SDA賞 サインデザイン奨励賞・九州地区賞特別賞 受賞、第5回辻静雄食文化賞 受賞ほか
静岡県掛川市 (旧大東町) 生まれ。博士(工学) (東京大学)。
東海大学大学院博士課程前期修了。元・静岡県立大学食品栄養科学部 客員准教授。
現在は、有限会社花野果 代表取締役、専門学校ICSカレッジオブアーツ 非常勤講師、日本大学生物資源科学部森林資源科学科 研究員・非常勤講師、工学院大学総合研究所 客員研究員。
主な著書:水と生きる建築土木遺産 彰国社 2016、日本の産業遺産図鑑 平凡社 2014、食と建築土木 LIXIL出版 2013、図説台湾都市物語 河出書房新社 2010
花野果 HANAYAKA https://tatemonoxxx.amebaownd.com/

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