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Japan Culture

2019.12.04 | 建築

私の好きな”かたちと風景” ⑭山形県大蔵村肘折温泉

私の好きな “かたちと風景” ⑭ 山形県大蔵村肘折温泉

山形県の温泉地に古からの湯治場として知られる肘折温泉がある。盛期は雪のない時期で、雪解けの進む5月の連休には多くの人で賑わっている。しかし、雪の時期こそ雪国の気候の厳しさと人の温もりを感じることができる。肘折温泉は、全国1、2位を争う積雪量の豪雪地であり、雪を体感するには最適な場所である。

積雪時の温泉でのすごし方としては、入湯、散歩、休憩を繰り返すことがおすすめである。気怠さで動きたくなくなる。筆者は、知人のいるカネヤマ商店のカウンターで、雪を見ながら休憩するのが至福の時間である。ぼつぼつと降る雪を眺め、姿形を変えて行く風景や、正面に建つ窓の郵便マークがポイントの旧肘折郵便局舎(昭和12年築)の屋根にうず高く積もる雪を見ているだけである。温泉街の方々の道路の除雪は早い。それだけに、眼前で町の風景が雪で変化していく様子を繰り返し眺めることができる。降雪が多い時には、一瞬で車が埋まる地域である。

豪雪地を楽しむには、雪のない時期にも訪れておく必要がある。階段付きの電話ボックス、背の高い消火栓など、普段目にするものとは姿形の違うものたちがある。もうひとつ、冬場の温泉街の散歩で気付き難いのが玄関である。正確には、玄関位置は同じだが、もう一つ玄関が付くのだ。雪を払う場を設けるために、玄関前に風除室が登場するのも冬期ならではの風景である。最上地方では、寺院などでも見られる簡易で仮設的なものが形成する冬の楽しみである。

豪雪地の朝は早い。宿主や地域の人々は、早朝薄暗い中で除雪を開始する。早起きは三文の徳、総長は薄暗い中、複数箇所で行われている除雪を眺めることができる。温泉街の中層建物の雪おろしも圧巻である。この雪おろしには、代々継承されてきた技術があるということで、新聞等で取り上げられることも多い。降ろした雪は、銅山川や温泉の流れる水路、融雪池で溶かされる。そして、その銅山川の上流、温泉街の外れには国登録有形文化財の肘折砂防堰堤(昭和27年築)がある。コンクリートの重みでダムとする重力式コンクリート造で、温泉街を土砂災害から守っている。雪の降り積もる中で見える水のカーテンは美しい。

山に囲まれた肘折温泉は、紅葉の時期も、新緑の時期も美しい。積雪時と、それ以外の美しい時期に訪れてみると、季節限定の“かたちと風景”を楽しむことができる場所の一つである。

参考:民俗写真家・松田高明 https://takaakimatsuda.jp/

 

 

博士(工学)、有限会社花野果 代表取締役
二村 悟 Satoru Nimura

受賞歴:O-CHAパイオニア学術研究奨励賞 受賞、第47回SDA賞 サインデザイン奨励賞・九州地区賞特別賞 受賞、第5回辻静雄食文化賞 受賞ほか
静岡県掛川市 (旧大東町) 生まれ。博士(工学) (東京大学)。
東海大学大学院博士課程前期修了。元・静岡県立大学食品栄養科学部 客員准教授。
現在は、有限会社花野果 代表取締役、専門学校ICSカレッジオブアーツ 非常勤講師、日本大学生物資源科学部森林資源科学科 研究員・非常勤講師、工学院大学総合研究所 客員研究員。
主な著書:水と生きる建築土木遺産 彰国社 2016、日本の産業遺産図鑑 平凡社 2014、食と建築土木 LIXIL出版 2013、図説台湾都市物語 河出書房新社 2010
花野果 HANAYAKA https://tatemonoxxx.amebaownd.com/

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