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2019.09.27 | 建築

私の好きな”かたちと風景” ⑪戸次本町を歩く 大分県大分市戸次

私の好きな “かたちと風景 ”
⑪戸次本町を歩く 大分県大分市戸次

大分県の町並みといえば、杵築市北台南台、日田市豆田町が国選定として知られ、観光地では臼杵がよく知られている。しかし、県の中心地・大分市にも十分に楽しむことのできる町並みが残る。それが大分市の戸次本町の町並みである。江戸時代末期から陸路では日向街道筋、舟運では大野川沿いという地の利を生かした要衝として発達した在町である。案内によれば、在町とは城下町以外の場所で商売が許可された商易の村とある。川沿いのため、各家の前面には階段状の雁木跡も残る。町には、江戸後期から昭和初期に至る歴史的建造物が建ち、修景による整備も進んでいる。修景とは、新しい建物の表面に手を加えて、歴史的な景観として整えることをいう。
例えば、妙正寺本堂は文化11(1814)年、主要道の本町通り筋の商家では旧料亭富士見楼は安政3(1856)年、旧呉服店塩屋は明治2年、旧呉服店万太は明治18年、旧国立二十三銀行出張所は明治32年、松石不老館は明治39年、旧帆足家隠居別荘五梅園は昭和4年である。
中心的な存在に大分市指定有形文化財・帆足本家酒造蔵がある。建物は、江戸末期から明治後期にかけて整備された様子が残る。門の脇には、町家型の長細い建物の様子を留め、背面にあった水路沿いに明治中期に蔵を拡張した様子は近代に工場化した様子を留めている。明治13年着工の貯酒蔵と明治42年着工の仕込蔵は繋がっているが、その構造の変化の様子が楽しめるのは必見である。建築技術の進まない時代は、柱や梁を太くし、空間には柱が各所に登場していたが、明治中期以降は洋風技術の導入で屋根を三角形に組むトラス構造が登場したことで、より広い規模を細い柱や梁で対応できるようになり、柱も省略されていく。各建物の水への対応の工夫も見所で、背面出入口の木桶を出し入れする工夫は必見である。
L型配置の酒造施設を一望できる位置に主屋・富春館が建つ。こちらも見事である。近世から近代初頭にかけての酒造には、質屋や貸金の蔵を通りに面して配す例が見られるが、その様子も留めており、質蔵はカフェに再生されている。質蔵は、趣のある空間に改修され、活用例としても好例である。通り沿いの質蔵に隣接する洋館は、接待の場として大正期に建てられたが、現在はレストランとして再生され、その空間を楽しむことができる。
現在、酒蔵の隣接地は小さな公園となっている。そのおかげで、帆足本家の角の道路向かいに建つと、大店の特徴である奥行きの長い様子と、通り沿いに建ち並ぶ質蔵までを一望できる。この様子はおすすめである。

 

 

博士(工学)、有限会社花野果 代表取締役
二村 悟 Satoru Nimura

受賞歴:O-CHAパイオニア学術研究奨励賞 受賞、第47回SDA賞 サインデザイン奨励賞・九州地区賞特別賞 受賞、第5回辻静雄食文化賞 受賞ほか
静岡県掛川市 (旧大東町) 生まれ。博士(工学) (東京大学)。
東海大学大学院博士課程前期修了。元・静岡県立大学食品栄養科学部 客員准教授。
現在は、有限会社花野果 代表取締役、専門学校ICSカレッジオブアーツ 非常勤講師、日本大学生物資源科学部森林資源科学科 研究員・非常勤講師、工学院大学総合研究所 客員研究員。
主な著書:水と生きる建築土木遺産 彰国社 2016、日本の産業遺産図鑑 平凡社 2014、食と建築土木 LIXIL出版 2013、図説台湾都市物語 河出書房新社 2010
花野果 HANAYAKA https://tatemonoxxx.amebaownd.com/

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