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2019.07.17 | 建築

私の好きな”かたちと風景” ⑨諏訪地方の鉄平石葺きの屋根

私の好きな”かたちと風景” ⑨諏訪地方の鉄平石葺きの屋根


諏訪地方(諏訪市や茅野市周辺)には、建築資材の特産に鉄平石がある。鉄平石は安山岩の一種で、この地のものは色や表情が豊かなことで知られている。そのため、大正から現代まで多くの建築家に愛されている。藤森鉄平石株式会社の採石場は、何度も見学の機会をいただいているが、今回は屋根材としての使用に注目したい。

諏訪地方の鉄平石は、明治初年に産業化の動きが生じ、明治10年代に屋根への葺き方が開発され、周辺民家に急速に普及する。普及の要因は、当時の民家の屋根が、勾配の緩い屋根に板葺が多かったためだろう。板葺きを石で押さえるという流れから、葺き材へと転化したと考えられる。石は傷むことはないので、地域住民にとっては板よりも合理的だったともいえる。鉄平石が諏訪地方の主幹産業となるのは、明治38年、現在のJR上諏訪駅が開業してからのことである。

近代に広く普及した鉄平石の屋根。かつては、民家や土蔵などの付属屋の屋根を彩っていた。ところが、現在は鉄平石の屋根を探すことは容易ではない。名残だけは、屋根や庇の端部にある石の落下防止用の板材に見ることができる。

屋根の葺き方をみると、葺き方には大きく2種類あることがわかる。平板を横に重ねて葺いていく方法と菱形に葺いていく方法である。屋根の端部の処理には、鉄平石の落下防止用の板が付くものと付かないものがある。さらに、山梨県や長野県には本棟造りという勾配の緩い大屋根をかけた民家形式が多く見られるが、落下防止用の板の延長で、頂部で板を交差させて飾りとする雀おどし(雀おどり)があるものとないものがある。この飾りは様々な種類があるが、一般的に繊細な彫刻のものは時代が新しいと考えられている。茅葺屋根の下屋庇に鉄平石が葺かれた痕跡が残る例もある。諏訪市指定文化財の志賀家住宅の庇にも菱葺きが使用されている。

広域に点在する鉄平石屋根だが、一箇所壁への使用も含めて楽しめる地域がある。諏訪市岡村一丁目付近で、駅前通りの麗人酒造から東に抜ける細い坂道を歩き、木村岳風記念館を横目に地蔵寺まで抜ける小路沿いである。この道沿いには、宮坂鉄平石商店の看板や様々に彩られた家々の壁面、鉄平石屋根、鉄平石を平積みにした門柱や外構、扉のような大きな一枚石を使用した壁面や床などの使用方法を楽しむことができる。駅前通の宮坂醸造では、なまこ壁に使用された鉄平石、茶屋小口商店の鉄平石屋根を眺めることができる。駅前通は看板建築の町並みで、併せて楽しめる。
 
 

参考文献:二村悟・小野吉彦:これだけは見ておきたい 日本の産業遺産図鑑 平凡社 2014
協力:諏訪市博物館学芸員 中島透氏/すわまちくらぶ 企画展「鉄平石」

 

 
 

博士(工学)、有限会社花野果 代表取締役
二村 悟 Satoru Nimura

受賞歴:O-CHAパイオニア学術研究奨励賞 受賞、第47回SDA賞 サインデザイン奨励賞・九州地区賞特別賞 受賞、第5回辻静雄食文化賞 受賞ほか 静岡県掛川市 (旧大東町) 生まれ。博士(工学) (東京大学)。 東海大学大学院博士課程前期修了。元・静岡県立大学食品栄養科学部 客員准教授。 現在は、有限会社花野果 代表取締役、専門学校ICSカレッジオブアーツ 非常勤講師、日本大学生物資源科学部森林資源科学科 研究員・非常勤講師、工学院大学総合研究所 客員研究員。 主な著書:水と生きる建築土木遺産 彰国社 2016、日本の産業遺産図鑑 平凡社 2014、食と建築土木 LIXIL出版 2013、図説台湾都市物語 河出書房新社 2010
花野果 HANAYAKA https://tatemonoxxx.amebaownd.com/

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