ニュース
「日本クリエイション大賞2025」選考結果のご報告
「日本クリエイション大賞」は、一般財団法人日本ファッション協会が行っている、製品、技術、芸術・文化活動、地域振興、環境、福祉など、ジャンルを問わずクリエイティブな視点で生活文化の向上に貢献し、次代を切り拓いた人物やプロジェクトなどを表彰対象とする顕彰事業です。2025年度は、事務局推薦も含めた113件の推薦案件の中から43案件を懸賞制度委員会に提案。3回の委員会での審議の結果、大賞1件と各賞として【先進洗身賞】【トイレソリューション賞】【ローテクの知恵袋賞】の3件を選考しました。
「日本クリエイション大賞2025」授賞案件
【大 賞】 太陽工業株式会社
「時代を越え、未来を支える多様な膜」
1970年の日本万国博覧会(大阪万博/EXPO’70)で“膜”を使った大規模なパビリオンを多数手掛け、一躍注目を集めた太陽工業株式会社。中でもアメリカ館は長さ140m、幅80mの巨大な楕円形屋根を空気の圧力だけで支える低ライズの「空気膜構造」を世界で初めて実現したもので、これが現代のドーム球場の先駆けとなった。
1988年に同社が屋根膜の製造・現場取付けを行った「東京ドーム」(設計:日建設計・竹中工務店/施工:竹中工務店)が完成し、恒久的な建築物として今も利用されている。2000年にはロンドンにある世界最大のドーム「ミレニアム・ドーム」の膜屋根を手掛けるなど、同社は“膜構造物”において世界シェアトップクラスのグローバルリーディングカンパニーである。
2025年の大阪・関西万博では、軽量で透明性が高く、耐候性や耐薬品性に優れたETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合樹脂)膜を使った「大阪ヘルスケアパビリオンNest for Reborn」や鏡のようなミラー膜で覆われたシグネチャーパビリオン「null2」、メッシュの外装膜を2層重ねたファサードの「未来の都市」など、20以上の多様な“膜”による構造物を実現し、万博の会場づくりにおいて再び中心的な役割を果たす。
1922年に能村テント商会として創業した同社は、当時から新しい技術を積極的に導入した製品開発を進め、70年万博以降も、「前回を超えることを成し遂げる」という強い使命感のもと、常に挑戦を続けている。
世界でも類をみない“膜構造”の専門企業として、同社の多様な膜は、時代を越え、未来を支えている。

写真提供/太陽工業株式会社
【先進洗身賞】株式会社シリウス
「ベッドで入浴、吸い取るシャワー」
株式会社シリウス(東京都台東区)が開発した、水洗いクリーナーヘッド「switle(スイトル)」は床の汚れを水で洗い流すと同時に吸い取る画期的な掃除器具だ。
この水を噴射しながら同時に吸引する機能を人の体を清潔にすることに応用しようと開発されたのが、「介護用洗身用具switle BODY」である。ノズルからお湯と液体せっけんを体に吹き付け、付属のスポンジでこすり洗いしながら水滴を吸い取っていく。ノズルが体に密着して周囲を濡らさないため、ベッドに寝たまま体や髪を洗うことができる。しかも使用水量は約1ℓ。この必要最低限の水量で、洗髪、予洗い、洗身、すすぎまで対応でき、災害時の水不足の際にも使いやすい。
同社代表取締役社長の亀井隆平氏が、亡くなった母親の介護をきっかけに、体を自由に洗えない高齢者の悩みを解決しようとアイデアを練り続け、2023年春頃から本格的な開発に着手し、水の吹き出し方や強さ、お湯の温度などの改良を重ねて完成させた。
介護士1人で準備から操作まで行うことで、これまで2人がかりで30分もかかっていた洗身作業を半分の人手と時間で済ませることができ、人手不足という構造的課題に応えるだけでなく、介護の質そのものを高める可能性を持つ。「switle BODY」はこれまで入浴と清拭しかなかった要介護者の衛生管理方法に新しい選択肢を加えた、まさしく“先進的な洗身用具”である。

写真提供/株式会社シリウス
【トイレソリューション賞】株式会社TI plusホールディングス
「循環する水が創る“エコノワ”」
農地や山間部、河川敷、ゴルフ場、建築現場など、日本には上下水道が整備されておらず、水洗トイレの設置が困難な場所が数多く存在する。さらに、自然災害が多い日本では、停電や断水などが発生するケースも多く、災害時におけるトイレの確保は、被災地の生活環境や衛生管理に直結する重要な課題となっている。
株式会社TI plusホールディングス(大阪府貝塚市)が開発した循環型トイレ「エコノワ」は、水道・下水道を必要とせず、設置後すぐに使用できる水洗トイレである。汚水を独自の浄化技術で無色・無臭・無菌の洗浄水に再生し、水洗トイレとして繰り返し使用できる衛生的なトイレ環境を実現した。上下水道の整備が難しい地域や、仮設・臨時での利用が想定される場面では、運搬性と設置性を兼ね備えた設備が求められる。エコノワは小型化に成功し、最小タイプは約1.5m四方に収まる。設置作業も1日で完了する。ろ過材に、天然成分を原料とし同社が独自に開発した多孔質構造のボルカナイトを使用しているため、小型でも浄化能力が高い。微細な孔が微生物に最適な環境を整え、汚物をきれいに分解する。浄化槽内にも汚泥などの残渣が残らず、再生された水はほぼ無臭になる。メンテナンスも年に1回程度で済む。
世界では、全人口の40%以上が安全で衛生的なトイレを利用できていないと言われる。同社は「循環する水が創る“エコノワ”」を世界中に広め、地球環境に貢献することを目指している。

画像提供/株式会社TI plusホールディングス
【ローテクの知恵袋賞】松藤 康司氏(福岡大学名誉教授/NPO法人廃棄物管理アドバイザーネットワーク福岡 理事長)
「福岡発、ごみ処理技術が大地を再生」
1970年代、わが国のごみの最終処分場は廃棄物を単に投棄する場所に過ぎず、悪臭や汚水が発生し、メタンガスによる火災や爆発、地下水の汚染など環境被害をもたらす場所だった。福岡市から最終処分場の状況改善の相談を受けた福岡大学では、松藤康司教授(当時)と水理衛生工学実験室のスタッフらが中心となって、後に「福岡方式」(準好気性埋立構造)と呼ばれるごみ処理技術の開発に取り組んだ。
処分場の底部に集排水管を設け、竪型ガス抜き管と連結させて酸素を取り入れることによって微生物による廃棄物の分解を促す仕組みで、浄化槽としての機能も備える。流入した酸素が廃棄物中の微生物を活性化させ、有機性汚濁物質を分解してメタンガスの発生を抑えるだけでなく、浸出水もある程度まで浄化する。ガス抜き構造資材は、がれきや竹、廃ドラム缶、古タイヤなど身近にあるもので、高度な技術は不要、低コストで建設管理できる。
この方式を採用した日本初の準好気性廃棄物埋立場が、1975年福岡市に誕生。1979年には国内の埋立地標準仕様の技術に認定され、今日では全国約1,500箇所の一般廃棄物最終処分場のうち、85%で採用されている。日本ばかりでなく、1988年導入のマレーシアを筆頭にアジア、アフリカ、中南米など26ヵ国で導入され、ごみの山を大地に再生している。

ガス抜き菅の施工の様子/写真提供・松藤康司氏
