生活文化創造都市推進事業

生活文化創造都市ジャーナル_vol.17 「ファッション甲子園の20年」

弘前商工会議所
ファッション甲子園実行委員会事務局
吉澤 佳苗氏

 

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①「ファッション甲子園」の始まり

2000年2月に青森県が策定した「青森県ファッション振興ビジョン」に基づき、21世紀のファッションを担う人材の発掘と育成および若者の夢の創造を目的として、高校生を対象としたファッションデザインコンテストが実施されることとなった。

2000年7月、先行的事業として北東北三県(青森県・岩手県・秋田県)の高校生を対象に「高等学校ファッションデザイン選手権大会(北東北三県大会)」を開催。当初の想定を超える反響があり、翌年から対象を全国の高校生に拡大、「第1回全国高等学校ファッションデザイン選手権大会(ファッション甲子園2001)」がスタートした。第1回全国大会では、実に47都道府県810校から9,000枚を超えるデザイン画の応募があった。

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全国から応募のあったデザイン画

 

②行政主導の大会から民間主導へ

2005年からファッション甲子園は新たなステージに入る。これまで主催を務めていた青森県から弘前商工会議所に事務局が移管され、弘前商工会議所・青森県アパレル工業会・青森県・弘前市の4者で実行委員会を設立。地元商工団体やファッション産業界が主体となり、行政がバックアップする体制となった。また青森県内外の企業や専門学校からの協賛もいただくことができ、より魅力的な大会にステップアップした。

事務局が引き継がれてからも、ファッション甲子園の基本スタイルは変えず、1チーム高校生3人以内・顧問教員との連名で応募、デザイン画による一次審査を行い、一次審査を通過したチームは最終審査会までにデザイン画を基に衣装に仕立て、ファッションショー形式の最終審査会で上位を競うこととしている。応募については、あえて個人での応募ではなくチームで応募することで、生徒間の仲間意識の形成に役立つようにしている。

また、ファッション甲子園はその名の通りファッション性とデザイン性を競うコンテストだが、出場しているのはデザイン系学科の生徒とは限らない。普通高校や工業高校、農業高校、特別支援学校の生徒まで幅広い層の生徒が参加しており、すべての高校生に開かれた大会となっている。

 

③青森県弘前市で開催すること

ファッション甲子園は昨年の開催で第19回目を迎えたが、よく「どうして青森・弘前でファッションなのですか?」と聞かれることがある。弘前市は江戸時代に津軽藩の城下町として栄え、第2次世界大戦後は東北初のコンクリート造の百貨店「かくは宮川」(1978年閉店)がオープンするなど東北圏内において流行に敏感な気質を持ったファッション感度の高い街であり、弘前市内および周辺一帯(津軽地方)には高い技術力を持つ縫製工場が多数立地している。津軽地方にある縫製工場では、国内だけではなく国際的なコレクションで着用する衣装を手掛けている工場もある。こうした土地柄もあり、当時の青森県知事の発案でフッション甲子園を開催すると決まった際に弘前の地が選定された。

今では他県の強豪校の先生から「夏と言えばファッション甲子園で、弘前に行くことが毎年の楽しみだ」と仰っていただける機会もあり、少しずつではあるが定着しているようにも感じる。いずれはファッション甲子園に出場した全国の高校生たちが、数年、数十年後にまた弘前の地を思い出し、訪問してくれると地元としては嬉しい限りである。

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2019優勝校へメダル授与
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2019優勝作品(岡山県立岡山南高校)

 

④未来のファッション業界の人づくり

ファッション甲子園では、第10回大会から優勝チームの副賞としてファッションの本場フランス・パリでの研修旅行を贈っている。また、準優勝・第3位チームはファッション・ウィーク東京に招待し、ファッション業界をより身近に感じてもらう機会を創出している。

またファッション業界を目指す若者に対して、より現実的に目標設定をするきっかけづくりになるよう、毎年、青森県内の高校生や専門学校生等を対象に「ファッションのお仕事最前線セミナー」を開催している。この事業は、普段地方ではなかなか接する機会のないファッション業界の方を講師に迎え、「ファッション業界にはどのような仕事があるのか」といった基本的な内容から講師自身の経験を交えた講演、生地や糸に触れるワークショップなど毎回バラエティに富んだ内容となっており、受講者からは毎回好評を得ている。

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ファッションのお仕事最前線セミナーの様子

 

⑤地方から全国へ

ファッション甲子園は青森県弘前市で約20年間にわたり開催されてきた。

地道に続けてきたファッション甲子園だが、2011年には日本ファッション協会から「日本クリエイション大賞明日を創る若者応援賞」をいただくことができ、そこからまた新聞・情報誌等で取り上げていただくなどファッション甲子園の注目度が高まったように感じる。

教育現場においては、少子化による学校・学科の統廃合が毎年全国各地で行われており、2011年度には5,060校あった高等学校数(公立・私立合算)が8年後の2019年度には4,887校に減少している。【(一財)日本私学教育研究所HPより】

だが、少子化・学校統廃合の流れがある中でもファッション甲子園には毎年約3,000枚を超えるデザインが応募されてきており、夢を実現したいという高校生の意欲と、生徒の指導をされる先生方の熱心さがデザイン画を通して伝わってくる。デザイン画を基に仕立てる最終審査会での衣装も「高校生の今だからこそ表現できるもの」と審査員に評価していただいている。

 

⑥今後の展望

今年度、ファッション甲子園は第20回という節目の大会になる予定であった。しかし、世界的に流行が拡大している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で今年度のファッション甲子園は一次審査会、最終審査会ともに中止となった。ファッション甲子園の中止については多くの学校から理解を得られたものの、「ファッション甲子園に並ぶ大会は無いから来年はぜひ開催してほしい」というご意見や「3年生の生徒はファッション甲子園を目指していただけに残念だ」というご意見もあった。学校から寄せられた意見を前にして、改めてファッション甲子園がファッションを学ぶ高校生の目標になっていることに気づかされた。

これまで約20年にわたりファッション甲子園を開催してきて、過去の出場者の中には夢を叶えてデザイナーとして活躍している方や、ファッション甲子園出場が契機となってファッション業界に進まれ活躍している方もいる。

これからもファッションを志す高校生を応援し、夢を実現するための一助を担う大会となるよう邁進していきたい。

写真提供:ファッション甲子園実行委員会事務局

 

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