生活文化創造都市推進事業

生活文化創造都市ジャーナル_vol1.  「 創造都市と日本社会の再生」

佐々木雅幸氏 (同志社大学特別客員教授、文化庁文化芸術創造都市振興室長)

 

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金沢21世紀美術館/写真提供:佐々木雅幸氏

 

「創造都市」とは文化と産業の創造性に富み、市民一人一人が創造的に働き、暮らし、活動する都市である。これは21 世紀に入って世界中で注目されている都市モデルであり、グローバル化と知識情報化が急速に進む中で、従来のような企業誘致や公共事業に頼るのではなく、地域独自の資源とアートやデザインの創造性を活かして、新しいクリエイティブ産業やライフスタイルの創出によって雇用を生み出し、衰退地区の再生などの成果を上げている。大量生産=大量消費による「成長の限界」に突き当たった欧米の都市では、すでに「欧州文化首都」事業など文化資本の活用やクリエイティブクラスと呼ばれる創造的人材による再生の試みが成功を収めており、日本おいても金沢市、横浜市などがリーダーとなってアーティストやデザイナーや文化団体、企業、大学、住民の連携によって推進されてきた。

 

 グローバル化の中で文化的な画一化が進むことを危惧したユネスコは、世界各都市の多様な文化産業が持つ発展可能性を、都市間の連携によって最大限に発揮させる枠組みとして、2004 年に「創造都市ネットワーク」事業を開始し、映像、文学、デザイン、クラフトとフォークアート、音楽、メディアアート、ガストロノミーの7 分野で世界54か国の116都市を認定し、日本では神戸、名古屋、金沢、札幌、浜松、鶴岡、篠山が認定されて相互交流を進めている。

 

 国内では、文化庁が2007年度より「文化芸術創造都市部門」の長官表彰を開始して、地域振興や観光・産業振興等に文化芸術の持つ創造性を多面的に活用して、地域課題の解決に取り組む自治体を表彰し、相互のネットワーク化を推進してきた。さらに2010 年度からは創造都市モデル事業により、仙北市(秋田県)、鶴岡市(山形県) 、篠山市(兵庫県)など「創造農村」をめざす小規模自治体も増えてきた。

 

 2011年には経済産業省にクリエイティブ産業(生活文化創造産業)課が設置されて、創造都市の経済的エンジンとなる新たな創造的産業の起業や、クリエイティブ産業のアジアなど海外市場への展開の支援を開始した。

 

 こうした中で、すでに全国130を超える自治体が参加してネットワークを構築しているカナダの事例を参考に、創造都市ネットワーク日本(Creative City Network of Japan=CCNJ)が2013年1月に設立された。現在70をこえる自治体が参加しており、大都市、地方中小都市、農山村と人口規模や地域特性の上で際立った多様性をもった地域連携のプラットフォームを形成することで、文化多様性に根ざした創造的な都市と農村間の相互関係の発展が期待されている。

 

 伝統的な芸能・工芸や都市景観などの文化資本を豊かに保存してきた歴史都市金沢は、基幹産業であった繊維産業が衰退すると、2001年より地元の経済界が継続的に、金沢創造都市会議を開催して現代アートをまちづくりに大胆に取り入れることに舵を切った。前市長の山出保氏は2004年に都心に21世紀美術館をオープンして、伝統を絶えず革新する「創造の場」とする拠点とし、市内の小中学生全員を無料で招待した。「次世代のまちづくりや芸能・工芸の担い手を養成する未来への文化投資」という視点からの英断であった。伝統的なクラフトマンシップによるものづくりに最先端のデザインを融合するクラフトビジネスの展開が注目される。北陸新幹線が開業直後の2015年5月には金沢市において、ユネスコ創造都市ネットワークの年次総会と市長サミットが開催され、世界中の創造都市のリーダーが集うことになり、創造都市のさらに大きなうねりが生み出された。

 

金沢とは対照的に、幕末の開国以来の150年間で急速に近代的な大都市となった横浜は、造船業やコンビナートの衰退の後に取り組んだウォーターフロント開発がバブル崩壊で頓挫すると創造都市に活路を見出した。2004年、文化芸術都市創造事業本部を設置し、全国で初の創造都市推進課を置いて、スピード感のある事業を展開した。金融再編で使われなくなった銀行や倉庫をアート拠点とするBankART1929事業や、大規模な現代アートの祭典である横浜トリエンナーレを開始して、デザイナー、クリエーターなど創造人材を誘致して、コンテンツ産業などの集積する創造産業クラスターづくりによって、まちづくりと雇用を生み出してきた。

 

横浜市のクリエイティブ拠点「YCC-ヨコハマ創造都市センター」/写真提供:佐々木雅幸氏
横浜市のクリエイティブ拠点「YCC-ヨコハマ創造都市センター」
/写真提供:佐々木雅幸氏

2014年からは、日中韓3国で「欧州文化首都」の東アジア版とも言うべき「東アジア文化都市」事業が開始されると横浜市が初代の東アジア文化都市として選定され、韓国の光州市、中国の泉州市とともに交流事業を開始しており、平和と共生のCreative Asiaに向かってリーダーシップを発揮しようとしている。

 

今後、このように創造都市のネットワークが国内外に広がってゆくことによって、長引く不況と大災害に直面した日本社会が地域から創造的に発展・再生する新たな活力をもたらすこと、さらに、アジアにおいて平和で共生的なネットワークを構築する礎となることが期待されている。

 

 

 

 <参考文献>

佐々木雅幸『創造都市への挑戦』岩波現代文庫、2012年

佐々木雅幸他編『創造農村』学芸出版社、2014年

 

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